TeaParty ~紅茶のお茶会~

『峠のお茶会』

「恋々たるこの想い5」

伝えることの出来なかった言葉をあなたに。
恋々たる、この想いを・・。


「拓海っ」
 しがみついて、そしてとても幸せそうな笑顔を見せてくれた拓海を涼介はぎゅっと抱きしめた。
 聞いた言葉が一瞬信じられなくて、だけどそれを確かめるよりも先に腕の中にしまってしまいたくて。
 二度と顔を見る事も、声を聞く事も、ましてや触れる事なんて出来ないと思っていた存在が今、自分の腕の中にいる。
「好きだよ。拓海の事が好きなんだ」
 過去形ではなくて、現在進行形で。
「ずっと、ずっと。愛してる・・」
 真っ直ぐに拓海の事を見つめて、涼介はありったけの想いを込めてもう一度想いを告げた。
「良かった。もう、遅いのかと思った。もう、間に合わないのかと・・」
 そう言って安心したように微笑んでいる拓海を涼介はもう一度抱きしめた。
「オレが先走ってしまったんだ。それなのに・・」
 自分の想いだけで、相手の事なんか考えもせずに行動してしまったのは自分なのに。本当は許されない事なのに。
 涼介はぎゅっと、でも壊れ物を扱うような優しさで更に拓海の事を抱きしめた。
「でも、それだけオレの事、想っていてくれたって事でしょう?オレはそれまで気付かなかったから。オレがもっと早くに気付いてればこんな風に涼介さんを困らせなくてすんだのに」
 腕の中で小さくつぶやくような言葉に、涼介は胸の痛みを感じた。
 本当なら一番大事にしたかったはずの存在を、その身体も心も、傷付けてしまったのは自分なのだ。
 傷付けて、そして自分は逃げだした。ずっと傷付けたままで。ずっと悩ませたままで。今まで、ずっと・・。
「すまない・・。謝っても許されない事だと分かっている・・。けれど、すまなかった」
 許して欲しいとは思わない。それだけの事をしたという自覚はあるから。拓海から、その気持ちを聞けただけでもう充分だから。
 それでも、それだからこそ、謝らずにはいられない。 
「もう、謝らないで下さい」
 そう言った拓海は微笑んでいて、涼介の心はぎゅっと締め付けられた。
 自己満足と、そして勝手な自己解決で終わりだと思い込んでいた。思い込んで、自分はそこから逃げるだけだった。
 拓海は、どれだけ悩んだのだろうか。どれだけ考えてくれたのだろうか。ただただ後悔と逃避だけだった、その間に。
「好きだよ」
 謝る言葉の代わりに、自分の心を拓海に伝えよう。

「涼介さん・・」
 涼介の顔が見たくて顔を上げれば、優しい瞳と目が合った。
 痛いくらいの涼介の想いをその言葉と瞳の中に感じ、拓海は本当にうれしく思った。
 謝られるより、好きだと言われた方が何倍もうれしい。何倍も、幸せになれる。
「オレ、ずっと気付かなくてごめんなさい・・」
 すぐに答えられなくて、言葉を聞く前に拒否してしまって。
「拓海のせいじゃないよ、拓海は、悪くないから。悪いのは、オレなんだから」
 こぼれてくる涙をそっとなぞる涼介の指から、優しさが伝わってくる。
 そんな涼介の優しさが少しだけ辛い。涼介だけのせいではないから一人で背負って欲しくない。同じだから、自分も一緒だから。
 でもうまく言葉に出来なくて、だから拓海に出来たのは首を振ることだった。
 こんな時、自分が歯がゆくて仕方ないと思う。言いたいことをうまく言えなくて、自分の気持ちをうまく伝えられなくて、いつもその繰り返し。
 あの時だって、自分がもっと早くに気付いて、そしてちゃんと伝えていればこんな事にはならなかったはずだ。
「拓海、ありがとう。大丈夫だよ、ちゃんと伝わっているから」
 優しく、微笑みかけるような涼介の表情とその言葉。
 お互いの間で伝わる、お互いへの想い。
 今は分かる。涼介の想いも、気持ちも、何もかも。そして、自分の気持ちもちゃんと伝わっている。
「ここから一緒に始めてくれるか?」
 涼介の言葉は、拓海がずっと願っていたものだった。ずっと始めたいと思っていた。一緒に、始めたかった。
 過去は変えられなくても、未来は二人で変えられるから。
 うれしくて、拓海はもう一度、涼介の腕の中へと顔をうずめるようにしがみついた。
 包み込むようなその腕の暖かさを優しいと思った。すごく暖かくて、拓海は自分の心がゆっくりと溶けていくように思えた。
 あふれてくるその想い。あなただけへの、その想い。
「ずっと、一緒にいてください」
 答えて、しがみついていた手を離して、思い切り手を伸ばして。
 今、一番に言いたい言葉。伝えたい、想い。
「涼介さん、好き・・」
 背伸びをして、首に腕を回して。

そして、触れた唇。



恋々たるこの想い
2001.6.9