TeaParty ~紅茶のお茶会~

『峠のお茶会』

「その香りを抱きしめて」

逢いたくて、逢いたくて、逢いたくて。
焦がれた相手が今、隣にいる。
ぎゅっと抱きしめれば、甘い香り。


出逢って、恋だと自覚して、逢えない事が淋しくて。
無意識に車を走らせたその先に、拓海は立っていた。
想いのままにオレの気持ちを伝えて。
そして口付けは、それよりもほんの少し前。
そのままさらってしまいたくて。
拓海を隣に乗せて、初めてのドライブ。
そして辿り着いたのが、ここ。
この腕の中に閉じ込めてしまいたくて。
「涼介さん、好きです・・」
ぎゅっと抱きしめて。
想いを確かめ合う。

気持ちを伝えようとする声は震えていた。
オレを見つめるその瞳に混ざるのは、緊張と恐怖。
無理をさせたくなくて、それでも求める気持ちは止められなくて。
「ただ、不安なんです。ホントにオレで良いんですか?」
そんなオレの気持ちが拓海を不安にさせる。
愛しているのに。愛しているから。
腕の中に閉じ込めて、もう離せなくなる。

零れそうなほどの大きな瞳から零れ落ちた涙に口付ける。
不安そうにゆれる瞳。それすらも愛しい。
そして触れた身体は熱く、耳に届く声は艶めいている。
縋り付くような手を握りしめて、オレは全てに触れてゆく。
拓海の全てを、奪いたい。拓海の全てを、オレのものにしたい。
「もう、りょうすけさぁん、だめだよぉ」
何もかも、拓海を感じたい。

口付けて、髪に触れて。
隠されたその赤い顔と、小さく返される声ではない返事。
その全てがかわいくて、愛しさは増すばかり。
守りたい気持ちと、そして奪いたい気持ち。
泣かせたくないのに、オレは泣かせてしまう。
名前を呼んで、その涙に触れて。
そして感じたのは拓海の唇。
「もっと、涼介さんを感じさせてください・・」
もう止まれない。
感じて、そして感じさせたい・・。

感じる場所を辿って、その度に上がる声に煽られる。
掠めるようにそこに触れた瞬間、拓海の身体に緊張が走る。
拓海の熱さを感じたい。
オレの熱さを感じさせたい。
口付けるように、傷付けないように。
そしてゆっくりと指を忍ばせる。
「・・っ、涼介さん、涼介さんっ」
繰り返し聞こえるのはただただ不安に怯える声。
同じ数だけその名を呼んで、それ以上の気持ちをその名前に込めて。
不安にはさせたくなくて、今はオレだけを感じてほしくて。
そして快楽だけを追わせるようにその場所を探す。
拓海の反応を確かめて、その表情を確かめて。
そっと開放させて、そして名前を呼ぶ。
オレだけに意識を向けて・・少しだけ、感覚を忘れてくれ・・。
拓海を感じたいから。その熱さを、その暖かさを・・。

狭いその中を、ゆっくりと、ゆっくりと進む。
ずっと憶えていたくて。決して、忘れないように。
上げられた声に、オレは不安になる。
どれだけの負担をかけているかは、計り知れない。
それでも全てを収めて、そして拓海が落ち着くのを待つ。
途切れ途切れの声に呼ばれ、力ない腕がすがり付いてくる。
拓海の顔は見えない。
どんな顔をしているのだろう。どんな表情をしているのだろう。
不安と、そして恐怖。
「好き・・」
けれど届いたのは優しい言葉。
拓海の、真っ直ぐな気持ち。
愛しくて、愛しくて、ただ、愛おしい。
オレを感じさせたい。オレで拓海を満たしたい。
深く、深く、拓海を感じたい。
愛してるよ、拓海・・。
ありったけの想いを込めて・・。オレの、全てを込めて・・。

抱えたままそっとお湯に浸る。
起こさないように、負担はかけないように。
伏せられたそのまぶたにキスを落として。
今は力を無くしたその身体をそっと抱きしめて。
そっと、触れるだけのキス。
だけど想いは伝わるはず・・。たとえ、眠っていても。

身じろぐような仕草と、擦り寄ってくるぬくもり。
「あまい・・」
見つめて、口付けて、想いを告げて。
ねだるように誘う唇に、もう一度キスを贈る。
抱きしめて、鼻をくすぐるのは甘い香り。
微かに香る、それは石鹸の香り。
オレも拓海も同じ香りに包まれて。
一緒だと、心から感じて。
それを幸せだと思う。とても幸せだと思う。

逢いたくて、逢いたくて、逢いたくて。
焦がれた相手が今、隣にいる。
ぎゅっと抱きしめれば、甘い香り。
その香りを抱きしめて、その香りに抱きしめられて。
オレはそっと目を閉じた。



その香りを抱きしめて
2001.7.16