TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

雪の宴

はらり ひらり 雪が舞う
はらり ひらり 花が散る



 暖冬の影響なのか例年より早く咲き始めたはずの桜は、けれど急に降り始めた雪によって盛りを迎えることが出来ずに蕾のままその時間を止めている。
 見上げた空からは綿のような雪が降り、視界のその先にある桜の木は寒そうにただ佇んでいる。

 冬に逆戻りしたみたいだ。

 寒さを凌ごうとコートの襟を引っ張ってもたいした効果はなく、冷たい空気にさらされた肌から体温が下がっていくのを感じる。
 一人で歩くその道は余計に寒く、つい最近まで隣にあったぬくもりを思い出さずにはいられない。

 この寒さを俺は忘れていた。

 好きだと言われたときはなんの冗談かと思いもしたが、告げられた言葉は嘘でも冗談でもないのだとその真剣な顔でわかった。
 自分の気持ちはまだよくわからないまま、けれど向けられた想いを自然と受け入れていた。

 たぶん嫌いではなかったから。

 会えば話をするし意見が合わなければ言い合いになる毎日はそれまでと大して変わらず、けれどそれが当たり前な日々になっていた。
 共に過ごした時間は短く、遠く離れたウィーンへと送り出したのはつい先日のことだ。

 まだ一週間も経ってない。

 しばらく日本に帰ってくるつもりはないと言った真剣な顔を思い出し、年末くらいは帰ってくると言いながら微笑んだ表情を思い出す。
 冬から春へと季節を変えた今、夏と秋の先にある年末が訪れるのはまだまだ先の話だ。

 それを待ち遠しいと思うなんて。

 何も考えずにただただ共に過ごした短い日々では気付かなかった気持ちに、その存在から離れたことで初めて気付かされる。
 春になってもまだ降るこの雪は、まるで早く冬が来て欲しいと願ってしまう俺の心のようだ。

 けれど季節は冬じゃない。

 遡ることなどしなくても季節が廻ればまた冬は訪れるというのに、それでも雪は桜の時間を止め春の訪れを拒んで降り続ける。
 想いを抱えたまま季節は廻り、想いはゆっくり積もっていく。


はらり ひらり 心が揺れる
はらり ひらり 想いが募る




雪の宴
2009.4.13
コルダ話36作目。
両思いだけど、切ない話にしてみました。
宴シリーズにしてしまいましたが、桜とは別話です。