TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』 音楽用語のお題

abgesang

 「また…」と言った俺に、「次はもうないぜ…」と君は答えた。

 自分の気持ちにはもうずっと前から気付いていたのに、俺はそれを告げられないでいた。
 男同士であるという尤もな理由を付けて、俺は自分の気持ちから逃げていたのかもしれない。
 そして留学を明日に控えたギリギリになって、俺はこの想いをやっと伝えた。
 後悔を残したまま旅立ちたくなかった、と言えば聞こえはいいかもしれないが、叶わなかったときの逃げ道はすでに作ってあったのだから俺のやり方はずるかったのかもしれない。

 俺の予想を簡単に裏切り、土浦は俺の想いを受け入れてくれた。
 同じ想いだったのだと知って嬉しいと思い、逃げていたことに後悔した。
 こんなことならばもっと前に告げていればよかったと、勝手なことを思ってしまう。
 片思いだったと思っていたその時間を埋めるように、たった一日しかないその日を惜しむように、土浦に俺を刻み付け、土浦の全てを俺の心に焼き付けた。

 離れてしまっても、俺たちは繋がっていられるのだと思った。
 俺が君を想い、君が俺を想うことは、ずっと変わらないのだと思っていた。

 けれど土浦は、次はないのだと言う。
 その言葉には、もっと深い意味合いが込められているような気がする。
 例えば、もう会うことすらないというような。

「お前、遅過ぎるんだよ。何でこのタイミングなんだよ。明日には居なくなっちまうくせに…」
 自分からも土浦からも逃げ、そして逃げ道まで作っていた俺は、なんて卑怯だったのだろうか。
「会わなくなれば忘れると思っていたんだ。なのにこんな、これじゃまるでやり逃げじゃないか」
 それは忘れたくないと、忘れて欲しくないと思っているということなのだろうか。

「お前なんか、お前なんかっ…」
 強く土浦を引き寄せ、逃げられないように抱き締める。
 何かに耐えるように噛み締められた唇を解くように、そっと指でなぞる。

「愛している…」
 何故、ずっと言えなかったのだろうか。何故、ずっと言わなかったのだろうか。
「愛している、ずっと…」
 今の俺には、この言葉しか口から出てこないというのに。



君に伝えたい、最後の言葉
2009.6.11
どうしても諦め切れず、だからこそ卑怯な手を使おうとした月森君と、
心のどこかで諦めようとしていたのに諦められなくなった土浦君。
両想いなのに気持ちをうまく伝え合えない二人ってもどかしいけど書くのは楽しいです。