TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』 音楽用語のお題

scherzando

 いたずらや嫌がらせでこんなことするヤツじゃないことはわかっている。
 それならば何故、俺は月森にキスされているのだろうか。

「好きだ…」
 俺はその答えを、ゆっくりと離れていった唇から告げられた言葉で知った。

「なんの冗談…」
 その真剣な表情から、それが冗談ではないことぐらい俺にもすぐにわかった。
 だからといって、それをすぐに理解できるほど俺の頭はやわらかくない。

「君が冗談で済ませたいのならば、それでもいい」
 まるでいたずらを楽しむような視線を送られ、もう一度ゆっくりと唇が近付いてくる。

「って、おいっ」
 制止する声など完全に無視されて、ついばむようなキスが何度も唇を掠めていく。
 別に追い詰められている訳でもないのに、俺は動くことも出来ずにただ立ち尽くしている。

「逃げないのか?」
 不意に引き寄せられて、今度こそ本当に逃げられなくなる。

「本気、なのか?」
 聞いておきながら、その答えを聞くことを怖いとも思ってしまう。
 必要以上に縮まる距離に、俺の心臓は壊れてしまうのではないかと思うほどに激しくなる。

「君がそう望むのならば…」
 質問に全く違う質問で答えたことを気にするでもなく、涼しい顔で答えが返る。

「俺はっ…」
 冗談で済ませたいのだろうか、それとも本気であって欲しいのだろうか。
 俺が冗談で済ませてしまえるほどに、月森の気持ちは本気ではないということなのだろうか。

「俺は土浦が好きだ」
 俺の心を読んだかのような月森は、真っ直ぐな言葉と眼差しで本気を俺に伝えてくる。

「君は?」
 もしこれが本当に冗談だったら、怒ることも拒否することも簡単に出来ただろうか。
 まるでいたずらのように触れるだけのキスが、俺の心をじわりと熱くする。

「冗談じゃ、済まされないだろう…」
 月森の本気を嬉しいと思っている自分の心に気付いてしまったから。

「だから俺を、好きにさせてみろよ」
 耳元でそっと、そんな言葉を伝えてみる。
 素直に認めることはまだ出来ないけれど、俺もきっと月森のことを…。



たわむれるように触れた唇は思いのほか熱くて…
2009.5.15
たわむれるという言葉にはいちゃつくという意味もあるそうです。
それにしても土浦君って、本当に素直じゃないですよね。