TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』  もどかしい恋のお題

こんなに近くても

 不機嫌そうな顔。寄せられた眉。にらむように向けられた瞳。
 気に入らないと、嫌いだと、その表情が語っている。
 その原因が自分にあることはわかっている。
 どうしても相容れない存在。直感的に生じる敵対心。
 俺たちは違い過ぎる。環境も状況も目指すものも考え方も。
 正反対過ぎて、認めることも受け入れることも出来ない。
 俺も君に対して、同じように思っていたことがあった。
 それでも俺は、君のピアノの音色に惹かれた。
 俺にはないものを、俺とは反対の解釈で、完璧に弾きこなす。
 思いのほか繊細な音色、圧倒的な技術、そして音楽に対する想い。
 だから、君自身にも惹かれた。
 この想いが叶うことはないと、君に好かれることなどないと知りながら。
 それでも、諦めることも止めることも出来なくて苦しくなる。
 どんなに近くにいても、君の笑顔が俺に向けられることはない。
 そして、君の心が俺に向けられることも、きっとないのだろう。
2007.12.16
月森君の片想い。
ハードルは高そうです。
こんなにというより、どんなにでした。


ライン( Line) *

 「ここまでな」
 触れるだけの口付けの後、そう言って引かれたライン。
 笑っているのにどこか挑戦的な瞳が、俺を見つめている。
 「どこまでだ?」
 その瞳に惹かれるように、もう一度唇を寄せる。
 「だから、ここまでだよ」
 寄せた唇を指で止め、また誘うように笑う。
 唇に触れた指先が、やけに熱く感じる。
 「わかった」
 答えながら、その指先に舌を絡ませる。
 「っん…」
 震える指先と、微かに聞こえる声。少し開いて、誘う唇。
 「はぁ…」
 指先に小さくキスを贈り開放すると、甘い響きが耳に届く。
 「ここまでなのだろう」
 耳元でのささやきに、小さく震える身体。
 「そんなの越えてこいよ…」
 潤んだ瞳で見つめられ、そして引き寄せるように回される腕。
 俺は今日、初めての深い口付けを落した。
2007.12.16
小悪魔土浦に余裕綽々月森な感じで。
引くだけではつまらないかなぁと。
しかし自分で引いておいて越えてこいとは…。


ぎこちなく微笑んで

 「俺は、別にお前のこと嫌いなわけじゃないから」
 不機嫌そうな顔でもなく、にらみつけるような顔でもなく、土浦から告げられた言葉。
 「お前は俺のこと…」
 言いかけてまた、違う表情を見せる。
 「嫌いなんだろうけどさ」
 小さくつぶやくようなその言葉に、俺は驚いた。
 何かと文句や皮肉を言ってきた顔とは違い、今まで見たことのないような表情を俺に向ける。
 いや、見たことはある。それが俺に向けられていなかっただけで。
 だから俺もずっと、嫌われていると思っていた。
 「俺も嫌いなわけじゃない。いや、むしろ…」
 言いかけて、次の言葉に詰まる。
 「え…」
 真っ直ぐに、二人の視線が合ってしまったから。
 「・・・」
 何も言えなくて、沈黙が続く。
 「お互い様、ってことか」
 「そうだな」
 言いかけた続きの言葉は言えなかったが、そこもきっとお互い様なのだろう。
 見つめ合ったまま、俺たちは小さく笑った。
 それはまだ少しぎこちない感じはしたけれど、お互いに初めて向ける笑顔だったのだと思う。
2007.12.17
好きとは素直に言えない二人。
笑顔も素直に向けられない二人。
この先、進展するのは大変そうです。


居心地の良さに慣れ過ぎて

 繰り返し繰り返し、同じフレーズを弾く。
 『そこ、なんか変だぜ』
 昨日、急に伴奏を止めた土浦に言われた言葉を思い出す。
 具体的にどう、という指摘はなかったが、確かに自分も変だと思った。
 何度合わせても上手くいかない。けれど一人で弾いていると変だと思う節が見当たらない。
 『そこ、なんか変だぜ』
 弾く度に、土浦の言葉がよみがえる。
 真剣な、考えるような、真っ直ぐに見つめる瞳。
 「何が、どう、変なんだ」
 今は誰も座っていない、ピアノの椅子に問い掛ける。
 答えは返ってくるはずもなく、ただ自分の声だけがむなしく響く。
 難しいフレーズというわけではない。とても綺麗で美しい旋律。
 ためいき混じりにヴァイオリンを置き、ピアノの蓋を開ける。
 ピアノで弾いたこの曲も俺は好きだった。
 土浦の伴奏のようには弾けないけれど…。君の演奏はスケールが大き過ぎて、負けそうになる。
 「あっ…」
 問題のフレーズ部分に差し掛かり、ハッとして演奏を止めた。
 何か、つかめたような気がする。
 もう一度ピアノで弾いてみる。そして土浦の伴奏を思い出す。土浦のピアノに俺のピアノを合わせる。
 「あぁ、そうか」
 答えは簡単なところにあった。ほんの少しのずれ。
 土浦のピアノに俺が合わせることも、俺のヴァイオリンに土浦が合わせることも、今では当たり前になった。
 気になる部分は口に出さなくてもお互いが修正してしまう。だから次に合わせる時はきちんと合う。
 そんなやり取りに慣れ過ぎて、俺たちは音楽の会話をしていなかったのかもしれない。
 お互いが合わせようとし過ぎて、逆に合わなくなってしまうこともあるということか。
 『そこ、なんか変だぜ』
 そう言った土浦と、ちゃんと話して聞いておくべきだった。
 「ずっと、言い合いばかりだったはずなのに」
 まだ出逢ったばかりの頃を思い出して、俺は思わず笑ってしまった。
2007.12.18
たぶんすでに恋人設定。
土浦君、台詞のみで出番なし。
タイトルから微妙にずれている気が…。


君は笑うだろうか

 逢った時から本当は好きだった、なんて言ったら、君は笑うだろうか。
 それともあきれるだろうか。
 君のピアノはあまりにも衝撃的で、一瞬にして虜になった。
 でも心のどこかで素直に認められなくて、あんな態度を取っていたのかもしれない。
 本当はもっと、君の演奏が聴きたかっただけなんだ。
 こんな俺の気持ちを知ったら、君はやっぱり笑うだろうか。
 でも、笑われてもいいと思う。
 君の笑顔が俺に向けられることは、どんなことでも嬉しいと思えるから。
 だから、俺も君に笑いかけよう。
 この想いを込めて。
2007.12.18
ラストは甘い感じで。
なので全然もどかしくないです。
そして土浦君はまた出番なし…。


月森君視点でまとめてみました。
甘いのから切ないのから微裏まで…。
もどかしかったり、そうじゃなかったり。


もどかしい恋のお題