? 魔法の余韻5

TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

魔法の余韻5(R18)

「あ…、ん、……あぁ…」
 触れるたび、土浦の口から小さな声がもれる。
 肌は触れる熱に、耳は甘やかな声に、目は徐々に乱れていく姿にそれぞれ煽られ、心が苦しいくらいに愛しさがあふれてくる。
「梁太郎」
 ぎゅっと目をつぶってしまった土浦の視線を自分に戻したくて名前を呼べば、まぶたの下から現れた潤んだ瞳に見つめられた。その潤みが涙のせいなのだとわかっていても、それをきれいだと思う気持ちのほうが勝ってしまう。
 せめてもの思いでその目元に唇を寄せれば、鼻にかかったような小さな喘ぎが耳を掠め、その声をもっと聞きたくて繰り返し何度もまぶたに触れた。
「…ぅん、れん…」
 喘ぎの中に自分の名前が混ざり、そっと唇を離せばじっと見つめてくる瞳が何かを訴えていて、それが何かを考える前に唇へとキスを落とせば、満足そうな声とともに、首に廻されていた腕に更に引き寄せられた。
 土浦の訴えに応えられたことを嬉しいと思う。普段、人の気持ちなどあまり興味がなく、むしろ煩わしいとさえ思うのに、土浦が相手だと何もかも知りたいと思うし理解したいと思うから不思議だ。
 キスをしながら頬に、肩に、胸にと触れていけば、首に廻されていた腕の力がゆっくりと緩み、より土浦に触れることが出来るようになった。
 土浦のその行動はこちらの意図を察してくれたからだろうか。それとも触れて欲しいと思ってくれているからなのだろうか。真意はわからなかったが、答えがどちらでも嬉しいことに変わりはない。
 キスを深くしながら下肢へと手を伸ばせば、ピクリと身体を震わせたが嫌がっている様子はない。それどころか、感じてくれているとわかる表情と反応を返されて安堵する。
「あ、……あぁ、ん……、あ、蓮っ…、あ…」
 キスの合間にこぼれる声をもっと聞きたくて唇を離せば、土浦はその声を惜しげもなく聞かせてくれた。
 初めて聞く声、初めて見る表情、そのすべてが初めてで、そのひとつひとつに感動にも似た気持ちがあふれてくる。
(俺の感情も、全部、初めてだ)
 もう、幾度となく感じてきた土浦への愛しさで心がいっぱいになる。こんなにも嬉しいと思っている自分に、驚きすら感じてしまう。
「梁太郎、好きだ」
「え…、ぁ、ぁ、…ゃぁ……っ………」
 あふれてくる想いを心の中にとどめておくだけではもったいなくて声にすれば、土浦は一瞬驚いた顔を見せ、そして次の瞬間、あえかな嬌声とともに達していた。
 その表情を、何と表現したらいいのだろうか。言葉は全く思い付かないが、嬉しくて幸せで、心臓をギュッと鷲掴みにされたような衝撃だった。
 理性も箍もまだ残っていたが衝動は止められず、手のひらで受け止めた温かなそれを指に纏わせ、土浦の更に奥まったその場所へとそっと手を伸ばした。


「梁太郎…」
 好きだと、そう言われた瞬間、突然、身体の中をものすごい快楽が走り抜け、最上まで一気に引き上げられた。
 何が起こったのか訳が分からないまま、まるで全力疾走をした後のような呼吸を繰り返していれば名前を呼ばれ、意識を蓮に向けようとした瞬間、身体の一番奥まった場所に蓮の指を感じて更に心臓が跳ね上がった。
 それが何を意味しているのか、なんとなくの知識はあっても経験があるわけではない。だから瞬間的に恐怖で身体か竦みそうになったが、心は蓮が欲しいと叫んでいて、恐怖心を抑え込むためにぎゅっと蓮に抱き付いた。
 くちゅ、と濡れた音が耳に届く。その音の正体が何なのかと考えられたのは一瞬で、何とも表現し難い感覚に歯を食い縛るのが精一杯だった。
(嫌だ、怖い。違う、そうじゃない。痛い、気持ち悪い。違う、違う、違う…)
 頭の中はぐちゃぐちゃで、蓮の肩口に額を押し付けながら無意識に首を振っていれば、蓮はその頭をそっと抱えるように抱き締めてくる。
「あ…、蓮…」
 肌から直接伝わる熱がたまらなく熱くて、身体が溶けそうな錯覚を起こす。そしてそれは心も溶かし、蓮を好きだと、そう想う気持ちだけが心に残る。
「すまない。無理をさせていることはわかっている。君を傷付けたくないとも思っている。それでも俺は…」
 知らず溢れていた涙で視界は歪み、覗き込んできた蓮の表情がはっきりとはわからない。だがその声音には聞き覚えがある。
 自分の演奏を聴いて欲しいと、めったに見せることのない弱みを、相手が猫だからこそ吐露したのであろうあのときの声と同じだ。
(その声を今、蓮は誰でもなく俺に向けてくれている)
 それを嬉しいと、思わないわけがない。
「俺は傷付かない。大丈夫だ。無理もしてない。心配なら俺を、ずっと抱き締めていてくれ」
 不安がないと言ったら嘘になる。恐怖心だってやっぱりある。それでも、それ以上にやっぱり蓮が欲しい。
「蓮、好きだ」
 さっき、蓮に好きだと言われたとき、本当に嬉しかった。初めて聞いたときと同じくらい嬉しくて幸せで、すごく気持ちよかった。
「俺も、梁太郎が好きだ。愛している」
 まるで誓いのような厳かなキスが唇に落とされ、止まっていた愛撫の手が再開される。
「あぁ、…ん、あ…ぅんっ」
 もう、不安なんてなかった。蓮を、全部欲しかった。その気持ちは身体に伝播し、自分でも信じられないくらいに気持ちよくてたまらない。自分のものとは思えない声を上げている自覚があっても、止めることも抑えることも出来ない。
「力を抜いていてくれ…」
 それは蓮自身を受け入れたとき、更に強くなった。痛みはもちろんあった。恐怖心も全くないと言えば嘘になる。だがそんなことよりもずっと、蓮で満たされていることが幸せだった。
「梁太郎、愛している…ずっと…」
 二度目の絶頂の瞬間、飛んでしまいそうな意識の中で聞こえた蓮の言葉に、意識だけではなく身体ごと高みへと連れて行かれるような、そんな錯覚を覚えた。