TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

雨の宴

はらり ひらり 雨が降る
はらり ひらり 涙が落ちる



 けだるい身体を持て余し、シーツの波に包まりながら夢現を彷徨う。
 聞こえてくるのは規則的な水音だけ。

 部屋の向こうからはシャワーの音。
 窓の向こうからは雨の音。

 そのひとつが止み、しばらくしてガチャリという扉の音が聞こえる。
 続いて足音がこちらに近付くのを、気付いていながら気付かないふりをする。

「土浦」

 近付くでもなく掛けられた声に、気付かれないように小さなため息を落とす。
 わざとゆっくり振り返れば、身支度を整えた月森がそこに立っている。

「帰るのかよ」

 感情の読み取れない瞳が、それでも俺だけを見つめている。
 けれど期待などしてはいけないことは、嫌っていうほどわかっている。

「雨、降ってるぜ」

 短い会話の間を、雨の音が静かに埋めていく。
 この雨は、お前を足止めしてはくれないのだろうか。

「あぁ…」

 ただ短く告げられた一言は、一体どちらに対しての返事なのか。
 どちらにしても月森は帰るのだろうと、背を向けるように丸くなる。

 帰る後ろ姿など、見送りたくない。
 引き止めることの出来ない、自分が悔しい。

「雨だな…」

 不意にベッドが軋み、耳元へとささやくような声が届く。
 撫でるように肌の上を滑る腕に、そのまま背中から抱き締められる。

「帰るんじゃなかったのかよ」

 意地を張って本心を隠していないと、一人で過ごす長い時間を乗り越えられない。
 本当はこのまま振り返って、その胸にすがってしまいたい。

「君の本心を聞きたい」

 首筋を掠めた吐息が、妙に熱くて身体が震えてしまう。
 服越しに伝わる体温に期待をして、我慢がきかなくなる。

「帰るなよ」

 ここにいろよ。ここにいてくれよ。
 時間の許す限り、そのギリギリまで傍にいてくれ。

 言葉にならない想いのまま、回された手を握り締める。
 挟むように重ねられた手に引き寄せられ、息が上がる。

 遣らずの雨が降っている。
 雨の音はまだ、止みそうにない。


はらり ひらり 小夜時雨
はらり ひらり 袖時雨




雨の宴
2009.4.16
コルダ話38作目。
両思いだけど、少しL←R気味な感じで。
でも月森はL→Rだと思っているのかも。